# COMMIT — 新規事業部門責任者のための研究会コミュニティ > 会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティ。運営はキュレーションズ株式会社。 - URL: https://commit.management - Language: ja ## Expert このサイトのコンテンツは、以下の専門家・組織によってキュレーション・監修されています。 - Name: 荒井宏之(ピンキー / Hiroyuki Pinky Arai) - Organization: [キュレーションズ株式会社](https://curations.jp) - Role: COMMIT 運営メンバー / キュレーションズ取締役CSMO 数多くの大手企業の新規事業開発を支援。COMMITでは運営メンバーとして研究会・セミナーの企画運営を担う。 ## COMMITとは - 大企業・伝統企業で部門長として新規事業・会社変革に挑戦してきた経験者が、新規事業に関わる「暗黙知」を共有する研究会 - Commit Leaders(発起人): 藤村昌平・山下昌哉・三戸仁・西尾未希・藤井弾・田中聡 - 運営: キュレーションズ株式会社(荒井宏之・根本隆之・望月紳) - 活動: 公開研究会・セミナー・オフライン交流会・COMMIT Leader個別相談会・無料ホワイトペーパー提供 ## お知らせ(研究会レポート・プレスリリース) ### 「新規事業人材をどう見出すか」〜COMMIT第9回研究会レポート〜 URL: https://commit.management/news/J_kTX_iX/ 2025年2月25日、企業の新規事業創出を支援するCOMMIT研究会の第9回を開催しました。今回のテーマは「新規事業人材をどう見出す〜社内育成か外部採用か〜」。michitekuを新規事業として小野薬品で立ち上げた三戸仁氏、トヨタ紡織で内部人材育成を手がける西尾未希氏、立教大学で企業の新規事業人材研究を行う田中聡氏を迎え、活発な議論が展開されました。 新規事業に求められる人材像 研究会では、まず新規事業を担う人材に必要な資質について議論が交わされました。三戸氏は新規事業の人材に必要な資質について、「行動力」「柔軟性」「ビジネスセンス」の3要素を挙げ、特に検証スピードの速さと顧客フィードバックを受け入れる柔軟性が不可欠だと強調。 「仮説検証のサイクルを高速に回せない人材では新規事業は成功しません。また、自分の考えに固執し、顧客の声を聞けない人は避けるべきです」と三戸氏。西尾氏も「プレゼン能力や数字の見せ方も重要。同じ内容でもプレゼンの仕方で評価が大きく変わります」と付け加えました。 社内育成vs外部採用の議論 本研究会の中心テーマである「社内育成か外部採用か」については、各社の事例を交えた議論が展開されました。 三戸氏は社内人材の強みとして「ドメイン知識の豊富さ」「社内ネットワーク」「提案の通し方の熟知」を挙げる一方、「新規事業に向いたマインドセットを持つ人材が少ない」という課題も指摘。この見極めのために同社ではビジネスコンテストを活用し、行動力や柔軟性を評価しているといいます。 また同氏は外部人材の活用事例として、小野薬品での取り組みを紹介。「キャリア採用」「M&A」「ベンチャー出向プログラム」など多様なアプローチで外部の知見を取り込んだ経験を披露。特にベンチャー出向プログラムでは、社員が1年間ベンチャー企業に出向し、新規事業の立ち上げを経験し、これまでに約20名が参加したとのことです。 「大企業の『同質性』には限界があります。異なる視点を持つ人材を混ぜ合わせることで、イノベーションが生まれやすくなります」と三戸氏は語りました。 経営層との合意形成の重要性 研究会の後半では、新規事業推進における経営層との関係構築についても貴重な知見が共有されました。参加者の多くが「経営層との目的共有」に課題を感じている中、田中氏は「新規事業の目的を正しく認識し、経営と握ることが何よりも重要」と指摘しました。 三戸氏からは「報告」ではなく「相談」形式でアプローチする具体的戦略も提案されました。「上司に対して迷っている部分を見せることで当事者意識が芽生え、協力を得やすくなります」と語り、参加者の共感を集めていました。 今後の展望 参加者からは「具体的な人材育成プログラムの設計方法」「人材育成におけるビジネスコンテストの有用性」など実践的な質問も寄せられ、活発な意見交換が行われました。今後の研究会では、これらのテーマについてさらに掘り下げていく予定です。 参加者の声 研究会後のアンケートでは、満足度の高さを示す回答が多数寄せられました。 「他社の方々の考え方や意見をお聞かせいただくことによって、改めて自分が考えている課題や疑問点を整理することができました。他社のケースや考え方を知ること、意見を交わすことが大きな学びになりました」(満足度9点) 「現場の生の声を情報交換できる、リアルな新規事業の進め方、課題等を学べた」(満足度9点) 「少人数でリアルな話を聞けたので良かった」(満足度10点) 「実際に現状取組みをされている責任者・企業中枢の方の生の声(WhySo?SoWhat?)の話を聞ける点が良かった」(満足度8点) 特に「オフラインならではのぶっちゃけ話が聞けた」という声もあり、リアルな場での情報交換の価値が高く評価されました。一部参加者からは「時間が足りなかった」といった声もあり、今後の運営改善につなげていく予定です。 --- ### 【8/24(月) 開催】COMMIT研究会「ビジネスプロデューサーは育成できるか」— つなぐ人材の育成と“二代目”という難題 URL: https://commit.management/news/commit-20260824-business-producer/ 2026年8月24日(月)、COMMIT研究会「ビジネスプロデューサーは育成できるか 〜つなぐ人材の育成と“二代目”という難題」を渋谷で開催します。モデレーターは藤井 弾 氏(ハウス食品株式会社 開発研究所 開発三部長)。参加は無料、大手企業のミドルマネジメント以上の方が対象のクローズド・ディスカッションです。 ▶ お申し込みはこちら(Peatix):https://peatix.com/event/5124089 この研究会の背骨にある問い 社内の点と点をつなぎ、事業を前に運んでいる人が、どの会社にもいます。その人の名前は、すぐに思い浮かぶ。では、その人が来春異動したら、同じことができる人は誰でしょうか。 点と点をつなぐ人材は、後天的に育てられるのか。 育てられるとしたら、何を評価し、何を引き継がせればいいのか。 この問いに、誰かが正解を教えるわけではありません。同じ立場で事業開発に向き合う人同士が、自社の実体験を持ち寄って議論し、それぞれが自社に持ち帰れる論点まで一緒に降ろしていく——それがこの研究会です。 このテーマが生まれた場所 7月23日の研究会では、「自社アセットをどう見極め、どう掛け合わせて事業に変えるか」を議論しました。その終盤、話は自然にひとつの問いへ流れていきました。結局それを動かせる人が、社内にいるかどうかではないか。 アセットの話は、最後に人の話へ行き着きます。今回はそこから始めます。 なお、今回が初めてという方も、どうぞ気軽にお越しください。テーマは今回だけで完結するように設計しています。前回の議論を知らないと入れない、ということは一切ありません。そもそもこの研究会は毎回メンバーが入れ替わります。初めて参加された方の「うちはこうなんです」という一言が、その日の議論をいちばん動かすことも珍しくありません。 こんな手応えのなさに、心当たりはありませんか - 部門を横断して人と情報を運んでいる人材が確かにいるが、その働きが評価制度のどこにも乗っていない - その人が異動・退職した瞬間に、社外との信頼関係も社内の非公式な調整ルートも一緒に消える - 「次の世代を育てろ」と言われるが、何を引き継がせればいいのかが言語化できていない - 二代目に任せてみたが、前任者のやり方を否定するところから始まってしまい、積み上げが途切れた これは、育て方の問題ではありません。つなぐ役割が、評価にも育成計画にも載る形になっていないだけです。 議論する4つの論点 モデレーターが問いを投げ、参加者の実体験を引き出しながら進めます。 - 定義 — 「ビジネスプロデューサー」とは、具体的に何をしている人か 点と点をつなぐ、社内外を橋渡しする——言葉にすると誰もが頷きますが、実際の動きは会社ごとに違います。自社では誰がそれをやっていて、その人が具体的に何をしているのか。まず輪郭を揃えるところから始めます。 - 評価 — 事業単体の数字に紐づかない役割を、どう評価するか つなぐ働きの成果は、たいてい他部門の数字になります。だから評価しづらく、評価されないから続かない。制度を変えずに公式化した例、変えにいって折れた例——うまくいった話も、いかなかった話も持ち寄ります。 - 継承 — なぜ“二代目”は育たないのか 引き継いだ瞬間に、前任者が築いた関係資産はゼロに戻ります。さらに、前任の投資や方針を否定したくなる力学も働く。何を引き継がせ、何は引き継がせないのか。この線引きを、実体験から詰めます。 - 育成 — 後天的に育てるために、実際に何を仕掛けるか 若手からリーダー格を選び、「おせっかいお兄さん」役を公式に任命する。外部とのネットワークを意図的に張らせる「場」を用意する。資質待ちにしないために、明日から自社で打てる一手を持ち寄ります。 モデレーター 藤井 弾 氏(ハウス食品株式会社 開発研究所 開発三部長) ハウス食品入社後、研究開発部門を経て、調味料・スパイスの企画開発マーケティング部門へ。スパイスブランド「GABAN」の家庭用導入に携わる。その後、海外事業部門で輸出製品の企画開発の傍ら、東南アジア事業の立ち上げメンバーとしてタイのジョイントベンチャーに出向し、機能性飲料や日本式カレー事業の現地立ち上げを担う。帰国後は新規事業開発部門で、全社の事業創出制度から、事業案を実証する出島会社の設立までを手がける。現在は20年ぶりに研究開発部門へ戻り、社内技術を活用した新価値創出に取り組んでいる。 社内で長く「つなぐ側」に立ち続けてきた当事者として、参加者と同じ目線で問いを投げ、実体験を引き出す役回りを担っていただきます。 開催概要 - 形式:COMMIT研究会 / ミドル層以上のクローズド・ディスカッション - 対象:大手企業のミドルマネジメント以上(経営企画・事業開発・新規事業等、新規事業に関する戦略策定やマネジメントを行う部門に所属) - 日時:2026年8月24日(月)19:00–22:30 - 会場:BAR GoEn(東京都渋谷区渋谷2-12-11 松下ビル2F) - 定員:最大15名程度 - 参加費:無料 - 申込締切:2026年8月23日(日)10:00 ご参加にあたって - セミナー(講義)ではなく研究会です。参加される皆さんにも、現在の状況や課題感をお話しいただき、一緒に議論いただく場となります。 - 参加者多数の場合は抽選とさせていただきます。参加可否はメールでご連絡します。お申込はメール返信をもって参加確定となります。 - 初めての方も大歓迎です。過去の回にご参加でなくても、まったく問題なくご参加いただけます。 - 誠に勝手ながら、コンサルティング業・マーケティング支援業・広告代理店等にご所属の方、フリーランス・個人事業主として同種のサービスを提供されている方、営業活動を目的とされる方のお申し込みはご遠慮いただいております。 ▶ お申し込み(Peatix):https://peatix.com/event/5124089 --- ### COMMIT研究会「出島か、社内か?新規事業における会社との距離感」研究会レポート URL: https://commit.management/news/8Y4yKI6L/ 「十中八九失敗する新規事業、どう説得する?」 「新規事業なんて十中八九うまくいかないのに、「出島の会社なんて存続できるのか?」―ハウス食品の藤井氏が社長から突きつけられた厳しい現実。そこから同氏は独自の出島組織あり方の検討へと動き出しました。 5月20日のCOMMIT研究会では、こうした教科書には載っていない生々しい新規事業の現実が次々と明かされました。登壇したのは、ハウス食品で出島組織を立ち上げた藤井氏、小野薬品工業の三戸氏、旭化成OBの山下氏です。 「プロダクトのオセロゲーム」からの脱出 「スーパーの棚はほぼ固定化されていて、プロダクトのオセロゲームをしている状況」。藤井氏が表現したハウス食品の現状は、多くの成熟企業が直面する課題そのものです。バーモントカレーやとんがりコーンで知られる同社も続くヒット作はなかなか生み出されません。新たな成長エンジンが求められる中、2020年に社内新規事業プログラム「GRIT」を開始しましたが、「既存事業の制約」「社内承認重視」「スピード感の欠如」という壁にぶつかりました。 そこで藤井氏が選んだのが出島会社「パッチワークキルト」の設立でした。経営層への説得プロセスには約1年を要しましたが、段階的な課題共有と解決策提示により承認を得ることができました。 医薬品業界の規制という高い壁を避ける 一方、小野薬品工業の三戸氏が直面したのは医薬品業界特有の規制でした。ドクターへの無償サービス提供が公正競争規約違反となるリスクを避けるため、当初はVCからの資金調達も検討しました。しかし「うまくいかない時の畳み方が問題になる」というコンサルタントの助言で断念し、子会社設立を選択しました。 興味深いのは実務レベルでのメリットです。「本体はWindowsとMicrosoft縛りだが、子会社ではMacとGoogleを採用。顧客インタビューでも、主婦や高齢者にはZoomよりLINE通話の方が馴染みがある」。こうした柔軟性が、顧客に寄り添ったサービス開発を可能にしています。 「石油から肉を作っている???」1980年代の苦労 最も歴史のある取り組みを語ったのが旭化成OBの山下氏です。1980年代は、化学系企業が新規に食品事業や医療機器事業を始めると、競合がわざと「石油から肉を合成している」とか「輸入部品を組み立てているだけ」という誹謗中傷を流すような時代だったので、旭化成のブランドイメージ自体が問題でした。そのため旭味や冷凍食品の事業は「旭フーズ」、人工腎臓やMRIの事業は「旭メディカル(現:旭化成メディカル)」という子会社名にして、あえて親会社のブランドを使わない戦略をとった事例もあります。また化学プラント系の工場地区では、安全管理業務に費やす時間比率が非常に高い文化的背景があり、既存事業より組織人数が少ない新規事業でも、組織ごとに同等量の安全業務が発生して安全担当者が疲弊するという問題も起きるため、化学系ではない新規事業領域では、物理的に場所を分ける「出島」も活用してきました。 「社長の奥様経由」で評価が変わった瞬間 参加者が最も反応したのは、藤井氏の「外部評価エピソード」でした。新規事業のリリースを事前報告なしで出したところ、たまたま社長の奥様の知り合いがそれを見て「素晴らしい取り組み」と評価しました。その話が社長に伝わり、「頑張ってください」とはっぱをかけられたといいます。 「社内で何度説明してもわかってもらえないことが、社外、特にBtoB事業では顧客から言われると突然納得してくれることもあるので、社内説得より社外PRや顧客に応援してもらう戦略が有効だった」―山下氏のコメントに、多くの参加者が頷いていました。 「給料は特に上がらない」インセンティブ設計の哲学 意外だったのは、新規事業担当者へのインセンティブについてです。三戸氏は「親会社の本部長と子会社の社長を兼務していたが、給料は特に上がらなかった」と明かしました。その理由は明確です。「オプジーボ(がん免疫療法薬の名称)は年間1500億円を生み出す。新規事業だけ特別扱いしたら、『既存事業より新規事業が重要』というメッセージになってしまう」。 実践知の共有が生む価値 今回の研究会で印象的だったのは、参加者からの率直な質問と、それに対する登壇者の包み隠さない回答でした。「経営層の関心をどう引くか」「VCとの付き合い方」「距離感の維持方法」―こうした実務的な課題について、実際に手を動かしてきたリーダーから直接学べる貴重な機会となりました。 参加者からは「こういうクローズな場でしか聞けない内容も聞くことができ、非常に参考になった」「社内の合意形成をする際の勘所を窺えたのが非常に有益」といった声が寄せられました。特に印象的だったのは「決して先進的で、やりやすい企業ではなく、極めて保守的な面も持つ企業で実行した例は大変参考になる」というコメントです。きれいな正解はなく、担当者と上位者が悩みながら進めている現実が、多くの参加者の共感を呼びました。 「出島組織に正解はない。各社が自社に最適な距離感を模索している」―これが2時間の議論から得られた結論でした。しかし、その模索過程で生まれた知恵や工夫、失敗談や成功体験こそが、新規事業に携わる人々にとって最も価値のある学びとなっていました。 COMMIT研究会では、こうした生々しい現場の声を直接聞き、同じ課題を抱える仲間と議論する場を提供しています。理論ではなく実践知の共有が、新規事業創出の現場に新たな視点をもたらしていきます。参加者の一人が「『とても手堅く、ある側面では保守的』な会社であっても事例が出せる、というのは業界的にとても励みになる」と述べたように、この場から生まれる勇気と知恵が、日本の新規事業創出を前進させることを事務局一同願っています。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会のお知らせはメールマガジンを通して行なっております。 ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### COMMIT研究会「新規事業の\"経験価値\"とは何か?事業を創る人の学びとキャリア論」ー立教大学准教授による10年間の研究成果を議論 URL: https://commit.management/news/xxlpdNF-/ 2025年7月15日、大企業の新規事業担当者約15名が参加するCOMMIT研究会「新規事業の"経験価値"とは何か?事業を創る人の学びとキャリア論」が開催されました。メインスピーカーは立教大学の田中聡准教授です。10年以上にわたる経営人材育成の研究成果を披露し、オンライン会場は熱気に包まれました。 経営陣と現場の「認識ギャップ」を検証 研究会の冒頭で紹介されたのは、野村総研との共同調査結果でした。新規事業で求められる資質について、経営陣と実際の担当者に同じ質問をしたところ、驚くほど異なる回答が得られました。田中准教授は歴史上の人物に例えて、この違いを巧妙に表現されました。参加者からは「まさにその通り!」との声が上がりました。 さらに興味深かったのは、担当者が最も困難だと感じている対象についての調査結果。多くの人が想像する「市場開拓」や「競合対策」ではない、意外な答えが明かされます。会場がざわめく瞬間でした。 「やる気」は成果に関係ない?驚きの研究結果 田中准教授の研究で最も参加者を驚かせたのは、新規事業への「意欲」や「やる気」と成果の関係についての発見でした。一般的な常識とは正反対の統計結果が示されました。代わりに重要だとされる要素について、詳細な説明が続きます。 なお、この要素につちて田中准教授は大きく2つのタイプに分類されといいます。研究会では、それぞれの特徴や新規事業での振る舞いの違いについて、具体例を交えて解説されました。参加者の多くが「自分はどちらのタイプだろう」と考え込む様子。まさに自分ごととして捉えた瞬間でした。 新規事業人材が辿る「成長の法則」とは 研究会のハイライトは、10年の研究で発見した「新規事業担当者が必ず辿る成長パターン」の発表。期間や特徴が異なる3つのステージに分かれており、特に最初のステージについては衝撃的な内容が明かされました。「どんなエース人材でも必ず経験する」とのこと。 各ステージでの心理的変化、次のステージへの転機となる出来事についても詳しく説明。多くの参加者が自分の経験と照らし合わせながら聞き入っていました。過去の自分を思い出す人、現在の状況に重ね合わせる人。それぞれの表情に納得の色が浮かびます。 実践者による具体的マネジメント手法 研究会では、元旭化成の山下氏と元ライオンの藤村氏が実践者として登壇。山下氏は新卒時から新規事業を希望した経歴で、一般的なパターンとは異なる体験談を披露しました。 藤村氏からは独自開発の「チーム運営手法」について説明がありました。5つの具体的なアプローチが紹介され、特に「転職サイトの活用法」については参加者から質問が殺到しました。また、「意思」という概念について従来とは全く異なる定義を提示。これまでの常識を覆す内容に、会場は再びざわめきます。 日本企業の「構造的課題」を議論 研究会では新規事業の課題だけでなく、日本企業全体が抱える問題についても活発な議論が展開されました。既存事業の環境が抱える「見えない問題」、バブル崩壊後の企業文化の変化が新規事業に与える影響などが話し合われました。 参加者からは「既存事業でも同じ課題を感じていた」「なぜDXが進まないのかが分かった気がする」といった感想。現場の実感と研究結果が重なった瞬間です。理論と実践の橋渡しが、ここで実現されました。 質疑応答で見えた現場の悩み 質疑応答では実務に直結する質問が次々と。アサインメントの問題、能力開発の優先順位、越境学習プログラムの効果など、どれも切実な内容でした。特に印象的だったのは「本人の意思と関係なくアサインされるケースが多い現状をどう考えるか」という質問。田中准教授の回答は、多くの参加者にとって意外なものでした。 人材育成の新しい視点 研究会を通じて最も印象的だったのは、新規事業経験がもたらす「変容」についての議論。田中准教授はこの変容を特別な言葉で表現し、既存事業での学習とは次元の異なる価値があることを強調されました。 参加者からは「新規事業を『罰ゲーム』と見る風潮を変えたい」「組織全体での理解促進が必要」といった意見。評価制度やキャリアパスの見直しについても議論が白熱しました。変革への強い意志が感じられる瞬間でした。 まとめ 2時間にわたる研究会では、新規事業人材育成に関する従来の常識を覆す知見が数多く共有されました。参加者の多くが「自分の経験を客観視できた」「組織に持ち帰って共有したい内容」と感想を述べており、新規事業に対する見方が大きく変わる機会となったようです。 田中准教授は最後に、新規事業経験の真の価値と、それを最大化するために必要な組織的取り組みについて熱く語られました。研究会は盛況のうちに終了。参加者の表情には充実感が溢れていました。 参加者の声 研究会終了後のアンケートでは、多くの参加者から高い評価を得ました。「非常に密度の高い議論を聞くことができました。新規事業のキャリアを学術的に読み込むことはあまりなかったので、網羅的にお聞きできました」「議題が絞られているため、興味がある方には参考になります。自分の中でも思考を整理する良い時間になりました」といった声が寄せられました。 一方で「問題設定に思ったより偏りがあった印象です。新規事業の成否は他にも要素があるのでは」という学術的な観点からの指摘、「初参加者への配慮がもう少しあると良い」といった運営面での改善提案もありました。 また、「田中先生の話が分かりやすく納得性が高かった」と講演内容への評価は高い一方、「もう少しキャリアにフォーカスした話が聞けるとよかった」「議論が白熱したので、次回は他の参加者の質問にも答えられる時間があると良い」といった今後への期待も多数あがっています。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会のお知らせはメールマガジンを通して行なっております。 ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### COMMIT研究会「新規事業創出人材育成で社内風土を変えるには」研究会レポート URL: https://commit.management/news/ysOGGTtA/ イノベーティブ人材育成プラットフォームの全容を語る 2025年4月22日、トヨタ紡織の西尾氏を招いた「新規事業創出人材育成で社内風土を変えるには」に関する研究会が開催されました。 研究者として大学院へ派遣され、博士号を取得した経験を持つ西尾氏。研究会ではトヨタ紡織の人材戦略部で「イノベーティブ人材育成プラットフォーム」を主導する同氏が、2022年から取り組む人材育成の実践について語りました。 トヨタ紡績の新規事業を活用した人材育成プログラム「Re:act」「We:ave」 同社のプラットフォームは、主に入門プログラムの「Re:act」と本格プログラムの「We:ave」の2つから構成されています。注目を集めたのは、その緻密な設計思想。企業風土や現状分析に基づいた独自のアプローチです。 「Re:act」は誰でも参加できるイベント型プログラム。年に2〜3回開催され、自分のアイデアを考え発表する楽しさを体験する場となっています。毎回約600人が参加。満足度は4点以上(5点満点)を維持中です。 一方「We:ave」は3段階構成の専任制プログラム。「ZERO(発起人体験編)」「BASIC(革新家体験編)」「ADVANCE(企業家体験編)」と段階的に設計されており、完全手上げ制で選抜された参加者は専任で社外に出て、自由なテーマで事業アイデアを考案・検証します。これまでの実績も堅実。一期生は36人から11人、二期生は16人から7人を選抜しました。 「事業より人材」の明確なスタンス 西尾氏の発表で特に注目されたのは、「事業創出より人材育成を優先する」明確な姿勢です。「簡単に良い事業はできないと思っています。トップとも握っていて、焦らなくていいと言ってもらっています」と西尾氏は語ります。 社外3年、社内5年の観察期間と、自社の徹底分析を経て設計されました。経営層の巻き込み方も特徴的で、社長・会長・副会長を同時にインタビューし、応援動画も出演してもらっている、といいます。「評価者と被評価者の関係ではなく、一緒に作戦会議をする」スタンスで経営層と対話していると強調しました。 また帰任後のフォロー体制も充実しており、「棚卸しと実践」期間を設け、キャリアビジョン策定から上司との擦り合わせまでをサポートしていることが披露されました。その結果、「上長からビジョンを聞くだけでなく自分なりの解釈をして提案できる」人材が育ちつつあるといいます。 質疑応答も白熱 発表後は多くの質問が寄せられました。「業務扱いか自己学習か」「社外活動のメリット・デメリット」「テーマと既存事業の関係」など、具体的な運用に関する質問から、「社内風土はどう変わったか」「その変化をどう測定するか」といった本質的な問いかけまで。多様な角度から議論が展開されました。 「私たちが目指しているのは、明日のトヨタサキチさんを作ること」と西尾氏。創業者のように「ありたき姿を描き、人を巻き込みながら変えていく」リーダー人材の育成を目指しています。将来的には「We:ave」で育成された人材が「会社のアセットと社会ニーズのマッチング役」として活躍するビジョンを描いています。 参加者からの反響 参加者からは「しっかりまとまっている資料と高い熱量から、特殊な人材が道を切り開くということを感じた」「表面的な事例でなく、設計思想まで聞けたから、設計者側の意図や特性の出方がとても面白かった」「人づくりを最初にトライした点を納得させるだけの緻密な進め方が素晴らしい」といった感想が聞かれました。 「単なる人材育成ではなく、背後には周到に検討、準備された痕跡が隠れ見え、西尾さんだからなせる業だと思った」という声も。特殊事例ではあるものの、「それが実績になっている以上言い訳にできない現実もあり、成功事例として非常に参考になった」との評価もありました。 トヨタ紡織の取り組み。創業100年を超える企業が次の100年を見据えた挑戦として、多くの参加者の共感を呼びました。人材育成の本質に迫る議論の場に、多数の質問が飛び交いました。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会のお知らせはメールマガジンを通して行なっております。 ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### COMMIT研究会「製造業の新規事業はシーズ起点かニーズ起点か」研究会レポート URL: https://commit.management/news/4ty-LLbQ/ 2025年3月25日、COMMIT研究会では「製造業の新規事業はシーズ起点で生み出すのか、ニーズ起点が重要なのか」をテーマに研究会を開催しました。COMMITリーダーである山下氏(元 旭化成(株) グループフェロー、現 e-Compass LLC 代表)、藤井氏(ハウス食品㈱)、藤村氏(元ライオン㈱、現㈱fucan代表)を迎え、新規事業創出の本質について活発な議論が交わされました。 注目される起点論の先にあるもの 製造業における新規事業創出で近年特に議論となる「シーズ起点かニーズ起点か」というテーマ。今回の研究会では、この二項対立を超えた視点の重要性が浮き彫りになりました。 最初に山下氏は日本の経済成長率の変遷に触れながら、高度成長期、低成長期、そして現在の「失われた30年」における事業創出アプローチの変化を解説。時代によって有効なアプローチが異なる点を指摘しています。 実例から学ぶ成功の本質 続いて山下氏からは自身が関わった電子コンパス事業の事例を共有。単なる「シーズとニーズのマッチング」に競争力を求めようとした企業は、それが「シーズ起点かニーズ起点かに関わらず」、結果的には同じようなコンセプトの製品になってしまい、どちらも大きな成功を得られなかったという実例を紹介。  これに対して旭化成は、自分達の製品が使われる客先の磁気環境やエンドユーザーの操作性で起こる「問題」に着目して、それを解決するソリューション開発に注力したことが、持続的な競争優位をもたらしたという、新規事業の開発プロセスに関する話題を中心に披露されました。 業界を超えた共通の知見 さらに食品業界からは藤井氏がハウス食品の事例を、日用品業界からは藤村氏がライオンの変遷を紹介。製造業としての強みを再定義しながら、技術開発と市場ニーズのバランスを模索する両社の取り組みについて議論が展開されました。 藤村氏からも「会社に足りないものは何か」という視点で新規事業を考えることの重要性も強調され、参加者との間で議論がさらに深まる場面も見られました。 企業の成長につながる新規事業創出のポイント そのほか研究会では、製造業の新規事業創出において「起点」の選択よりも、問題解決の視点や顧客の先にある価値の創造、企業としての自己定義の見直しなど、より本質的な要素が重要であるという見解が共有されました。 山下氏は「起点の議論はビジコン通過が目的化している」と指摘。事業として成長するためには定型的な順番に拘らない柔軟な開発プロセスと問題解決の視点が重要だと強調しています。 参加者の満足度と声 - 平均評価9.3点 研究会の満足度は平均9.3点と非常に高く、参加者からは多くの好評の声が寄せられています。 「山下様の実例を交えた説明がとても分かりやすく、勉強になりました。ニーズ起点、シーズ起点のどちらでもなく、顧客や社会の問題認識と解決策の組み合わせが大切だという点が印象に残りました」 「3者それぞれ異なる背景・アプローチから、多様な側面からの考え方・アドバイスをいただき、絶賛振り返り中です。クローズドな雰囲気で、良い意味でここだけのお話が聞けて大変ありがたかったです」 「藤村様から"歴史に裏付けされた技術を活用したいという思い(執着)がある。それを前提にどう動くか"という自分でも漠然と感じていたことを明確化いただけたことが非常に印象的でした」 「既存事業が大きな業績を上げてきた製造業の中で、実際に新規事業の立上げを牽引されてきた方々の生の声による実体験に基づいたご意見が聞け、自分自身の考え方や社内環境の違いを知ることができました」 また、「上の方に納得していただくためのテクニック」についての議論や、製造業ならではの組織構造の利点を活かした事業創出についても関心が見られました。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会のお知らせはメールマガジンを通して行なっております。 ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### 新規事業が単年度予算のリズムに合わせると死ぬ理由——「今期の数字」という時間軸の呪縛 URL: https://commit.management/news/tanninendo-yosan-shinjigyo/ 4月に立てた事業計画は、7月にはもう前提が崩れている。ターゲット顧客の反応は想定と違い、当初描いていた収益モデルも成立しそうにない。それでも予算書だけは4月のまま動かない。期中に計画を見直したいと申し出ても、「今期の数字はどうなるのか」の一点で押し戻される。期末になれば、計画未達を理由に来期予算が削られる。 毎年これを繰り返している部門があるとしたら、原因は事業計画の精度でも担当者の説明力でもないことが多い。単年度という会計の周期と、新規事業が本来必要とする学習の周期。そもそもこの二つが噛み合っていない。 単年度会計は「反復可能な事業」を前提に設計された制度である 単年度予算は、来期も今期と同じような事業が続くことを前提に組まれている。既存事業であれば売上構造も原価構造もおおむね既知で、来期の数字を精度高く見積もることに意味がある。予算とは要するに「決まった型を、決まった規模で回すための資源配分」だ。 新規事業はこの前提の外側にいる。誰が買うのか、いくらで売れるのか、どんな体制を組めば利益が出るのか。この前提そのものが、まだ仮説の段階にある。4月の時点で1年後の売上を精度高く見積もろうとする作業自体、本来不可能な精度をできるふりで乗り切っているに過ぎない。会計年度という周期と、仮説を立てて検証し前提を更新するという学習の周期は、由来も長さも違う別物である。片方の物差しでもう片方を測ろうとすること自体に、そもそも無理がある。 「計画通り消化できないこと」ではなく「計画が早期に確定しすぎていること」が問題 期中に前提が変わっても予算配分を見直せない硬直性は、探索の速度そのものを鈍らせる。有望な兆しが見えた領域に予算を追加投入したくても、期初の計画にない支出は通しにくい。逆に、初期の検証で筋が悪いと分かった施策でも、予算がついている以上は消化圧力がかかり、見切りをつけるタイミングが遅れる。学習を促進するどころか、両方向から邪魔をしてくる制度になっている。 この問題意識自体は目新しくない。リーンスタートアップが広めた「構築・計測・学習」のサイクルも、研究開発マネジメントの分野で使われてきたステージゲート法も、投資判断を一度で終わらせず検証の節目ごとに区切って段階的に配分し直すという発想に立つ。最初にすべてを見積もり、1年分を一括で確定させるやり方とは、資源配分の設計思想そのものが違う。単年度予算がうまく機能しない根には、運用の甘さよりもこの設計思想の不一致がある。 予算の取り方・報告の仕方を制度側に合わせて設計し直す 現実には、多くの企業にとって会計年度そのものを新規事業のためだけに組み替える対応は難しい(決算の仕組みは新規事業部門一つの都合で動かせるものではない)。だとすれば、手を入れる余地が残っているのは会計制度そのものではなく、その制度の上で新規事業側がどう予算を申請し、どう報告するかという運用のほうになる。 一つの手当ては、年間予算を一括で確保するのではなく、検証マイルストーンごとに分割して申請する形に組み替えることだ。「顧客仮説の検証まで」「収益モデルの検証まで」と区切り、各段階の終わりに続行・修正・撤退を判断する。これなら期中の方針転換は計画からの逸脱ではなく、もともと想定されていた意思決定の一つとして扱える。 もう一つの手当ては、期中報告の言語を変えることだ。「計画比◯%未達」という報告は、単年度会計の物差しでしか自分たちの活動を語れていないという意味でもある。何を検証し、何が分かり、前提をどう更新したのかを合わせて報告できれば、数字の上での未達という表記そのものを、学習が進んだ記録として読み替えられる。 新規事業の成否を決めるのは、事業そのものの筋の良さと、それを社内のどの制度の上で走らせるかという設計の両方だ。後者もまた、責任者が担うべき仕事の一部にほかならない。 次の予算策定に臨む前に、自部門の予算枠をステージゲート型に組み替えられないか、経営企画や財務の担当者に一度持ちかけてみてほしい。会計年度は変えられなくても、その中の配分の切り方には、まだ対話の余地が残っている。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会やコラムのお知らせはメールマガジンを通して行なっております。ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### 新規事業とジョブローテーションはなぜ相性が悪いのか——2〜3年周期が壊すもの URL: https://commit.management/news/job-rotation-new-business-mismatch/ 定期異動の周期と、新規事業が要求する時間軸のあいだにあるズレ 多くの大企業で人材育成の柱に据えられてきたジョブローテーションは、新規事業という文脈では事業の推進力そのものを損なう要因になり得る。一般に2〜3年周期で担当者を入れ替える定期異動の慣行と、新規事業の立ち上げに要する仮説検証・顧客理解の蓄積という時間軸のあいだには、構造的な不整合が生じているからだ。 この不整合は、特定の企業の運用の巧拙や、個々の担当者の能力の問題として片づけられるものではない。ジョブローテーションという制度自体が、もともと新規事業を想定して設計されたものではないという、より根の深い事情に起因している。 ジョブローテーションの合理性は、既存事業を前提にしている ジョブローテーションが日本の大企業に広く定着してきたのには、それなりの合理性がある。複数の部門を経験させれば、事業全体を俯瞰できる人材が育つ。特定のポストへの過度な依存も避けられるし、部署をまたいで話を通せる橋渡し役も自然に増える。既存事業のように、業務プロセスも顧客も市場構造もある程度確立している領域であれば、担当者が数年単位で入れ替わっても、引き継ぎさえ機能すれば事業は回り続ける。むしろ多様な人材を循環させることのほうが、組織全体の適応力を高める。 ところが新規事業は前提が異なる。何が売れるのか、誰が対価を払うのか、どの課題が本当に切実なのかが、着手した時点ではまだ分かっていない。仮説を立て、検証し、外れれば修正し、また検証するというサイクルを何度も回して、ようやく事業の輪郭が見えてくる。この探索から検証、そして拡大へ至る一連のプロセスには、通常、複数年単位の時間がかかる。しかも各フェーズで得られる学びは、前のフェーズの学びの上に積み重なっていく性質のものであり、途中で担当者が入れ替わればその積み重ねが途切れる。 既存事業向けに設計された2〜3年という異動周期を、性質の異なる新規事業にそのまま適用すれば、事業がようやく仮説の精度を上げ始めた頃に担当者が交代するという事態が構造的に起こりやすくなる。これは運用の失敗ではなく、そもそも異なる時間軸を持つ二つの仕組みを、同じ物差しで扱っていることの帰結である。 この対比は、チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンが「両利きの経営」として論じてきた、既存の知を深める活動(exploitation)と新しい知を探索する活動(exploration)の区分とも重なる。人材を循環させて組織全体に知見を行き渡らせる運用は、深化の論理には適合するが、特定の仮説を同じ担当者が辛抱強く検証し続けることを要求する探索の論理とは、本来別の設計原理を必要とする。 異動のたびに失われるもの——属人化した知見の断絶 新規事業の初期段階で蓄積される知見の多くは、報告書や議事録には残りにくい性質を持つ。どの顧客層に話を聞くと有効な反応が得られやすいか、どの言い回しで説明すると初回の商談が次につながりやすいか、社内のどの部署に話を通しておくと後工程が滞らないか——こうした知見は、担当者本人の中に経験則として蓄積される暗黙知であり、明文化されないまま個人に属人化しやすい。 この属人化自体は、新規事業の初期に特有の避けがたい現象でもある。仮説検証の過程はマニュアル化しにくく、担当者が自ら手を動かし、外れを重ねながら勘所をつかんでいくほかない部分が大きい。問題は、その勘所のうちどこまでが組織側に残せるものなのかが、あまり吟味されないまま、異動によって担当者本人がまとめて持ち去ってしまう点にある。 後任者は、前任者が数年かけてたどり着いた地点からではなく、しばしば探索の初期段階に近いところから再び仮説を立て直すことになる。事業計画書や引き継ぎメモの体裁は整っていても、そこに書き切れない判断の根拠や、失敗した施策の背景にある文脈までは伝わりにくい。結果として、外形上は事業が継続しているように見えても、実質的には「振り出しに戻る」というコストが定期的に発生する。このコストは決算書には現れにくいため、経営側からは見えにくいという厄介さも併せ持つ。 異動は敵か、それとも唯一のリセット装置か ここまでの整理だけを読むと、対処は単純に見える。異動周期を延ばすか、固定担当制にすればよい、と。だが長期間ひとつの事業に居座り続けた担当者は、費やした時間と労力そのものに判断を縛られやすくなる。積み上げた検証の量が増えるほど埋没コストへの執着が強まり、筋の悪い事業を止めるべき局面で止められなくなる。事業が担当者の自己証明と一体化してしまうからだ。 つまり定期異動は、知見の断絶を引き起こす装置であると同時に、組織が事業を客観視し直せる数少ない強制的な機会でもある。前任者が下せなかった撤退判断を、しがらみのない後任者だからこそ下せる場面は実際に少なくない。だとすれば問うべきは「異動させるべきか否か」ではなく、「何を断ち切り、何を持ち越すかを選べる異動に組み替えられるか」である。 三本の打ち手は並列ではなく、補完関係にある この観点に立つと、対処法は独立した選択肢の一覧ではなく、役割の異なる部品の組み合わせとして見えてくる。出発点は、ここまで見てきた暗黙知を二種類に分けることだ。一方は試した施策とその棄却理由のように言語化すれば形式知に変換できるもの、もう一方は顧客側の担当者との個人的な信頼関係や、社内のどこに「この人が言うなら」という信用が効くかといった、人にしか宿らないものである。両者を同じ扱いで「引き継ぎ資料に書いておけばよい」と済ませると、記録に残らない部分がそのまま失われる。むろん、現場でこの線引きがきれいに割り切れる保証はない。それでも、割り切ろうと試みること自体が、引き継ぎの精度を変える。 この区分は、経営学者の野中郁次郎らが『知識創造企業』で提示したSECIモデル――暗黙知と形式知の変換プロセスを扱う枠組み――とも重なる論点である。同モデルが示すのは、暗黙知の一部は共同化・表出化を経て形式知へ変換しうるが、変換しきれない部分は個人の側に残り続けるという構図であり、新規事業の引き継ぎ問題は、この変換可能な範囲と不可能な範囲の線引きをどこに設計するかという問題として捉え直せる。 優先すべきは、形式知化できる範囲を最大化する仕組みを制度として持つことだ。何が有効で何が無効だったのかを判断根拠まで含めて記録し、組織のナレッジとして残す運用を位置づける。記録では移せない関係資本には、並走期間や複線配置を充てる。前任者と後任者が重なる期間を確保しておくのは、記録では届かない部分を埋め合わせる二段目の手当てであって、代替案ではない。 これらを支える器として、新規事業部門を人事制度上の例外領域と位置づけ、異動サイクルの基準を探索期・検証期・拡大期という事業フェーズに連動させるという選択肢もある。狙いは異動を遅らせることではなく、埋没コストが浅いうちにリセットできるフェーズを、あらかじめ設計しておくことにある。 事業の時計と人事の時計は、放っておけば別々の速度で回り続ける。異動を蓄積の断絶としてのみ扱うか、意思決定のリセットとしても使いこなすか——同じ2〜3年という数字は、どちらの意味にもなる。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会やコラムのお知らせはメールマガジンを通して行なっております。ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### 新規事業に異動すると人事評価で損をする、はなぜ起きるのか——MBO(目標管理制度)という物差しの限界 URL: https://commit.management/news/jinji-hyoka-shinjigyo-mismatch/ (本稿は特定企業への取材に基づくものではなく、MBOの制度設計論と評価理論の知見を新規事業配属という文脈に当てはめて構造を解く分析論考である。) 「まだ検証段階です」としか言えない考課面談 半期の考課面談。上司から「今期の数字目標に対して、達成率は?」と聞かれる場面を思い浮かべてほしい。新規事業に異動してまだ半年の担当者は、口ごもる。「まだ検証段階です」――それ以上の言葉が出てこない。面談室に流れる沈黙は、思いのほか長い。エアコンの音だけが、やけに大きく聞こえる。 上司の手元にあるのは、既存事業向けに作られた目標管理シートだ。売上目標・利益率・KPI進捗という欄が並び、そこに新規事業の現状を無理やり書き込もうとしている。担当者本人の努力や能力とは関係のない場所で、評価はすでに歪み始めている。 これは個人の能力不足ではない。評価制度そのものの設計が、異動先の事業フェーズに合っていないという構造の問題だ。MBO(目標管理制度)という物差しは、探索段階にある新規事業を測るようにはできていない。 MBO型評価は「期初の数値目標」を測る仕組みであり、探索段階の新規事業とは測るものが違う MBOは、期初に立てた数値目標に対する達成度を測る仕組みである。既存事業であれば、需要も競合構造も収益モデルもすでに検証済みという前提があるからこそ、目標設定に意味がある。 新規事業の探索段階は違う。何が売れるか、誰が顧客になるかが、まだ確定していない。数値目標を期初に立てること自体が本来無理筋であり、それでも制度上は立てざるを得ない。結果として、未達という判定だけが機械的に積み上がっていく。 冒頭の担当者も、半期のあいだ手を止めていたわけではない。想定顧客へのインタビューを重ね、うまくいかなかった仮説を二つ潰し、次に検証すべき仮説を一つに絞り込んでいた(この「二つ潰した」という経験こそが、次の意思決定の速度を上げている)。これは新規事業の初期段階としては真っ当な進捗だが、目標管理シートのどの欄にも数字としては乗らない。 これは、事業KPIのフェーズ不整合と同じ構造だ。ただし今ここで問題にしているのは事業の予算やリソースではなく、担当者個人の昇給・昇格・査定という、より直接的な話だ。事業のKPIが甘くても、個人の考課シートには容赦なく「未達」の欄が埋まっていく。 経営学者スティーブン・カーは1975年の論文「On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B」で、測定しやすい指標に報酬を結びつける制度が、本来求めていた行動とは別の行動を引き起こしてしまう構造的な罠を指摘した。MBOが探索段階の新規事業に噛み合わない問題も、「測れるものだけが評価される」という同型の罠として説明できる。 経営学者リタ・マグレイスとイアン・マクミランは、不確実性の高い事業に対して既存事業と同じ数値計画を当てはめること自体が誤りだとし、期初の目標達成度ではなく「前提としていた仮説がどれだけ検証されたか」を追跡する評価の枠組み(ディスカバリー・ドリブン・プランニング)を提唱している。カーが指摘した「測れるものだけが評価される」罠への処方箋として、この仮説検証ベースの評価軸は実務的な選択肢になる。 「大目に見る」という上司の温情頼みの運用はなぜ破綻するか 現場でよく採られる回避策は、上司が個人の裁量で「今期は大目に見る」と評価をならすやり方だ。これは一見、担当者を守っているように見える。 しかしこの運用は、二つの瞬間に必ず破綻する。相対評価の枠に押し込まれ、誰かの評価を下げなければ帳尻が合わなくなった瞬間。そして上司自身が異動・交代した瞬間だ。後任の上司には「なぜこの人だけ数字が未達なのに評価が高いのか」という説明の負担だけが残る。前任者の温情は引き継がれず、結局は前例のない評価として突き返される。 さらに、考課に相対評価の枠を設けている企業は少なくないと言われる。部門内の評価をS・A・B・Cのような分布に収める運用があると、誰か一人は下位に配分せざるを得ない。数字で説明しにくい新規事業の担当者は、真っ先にその枠へ押し込まれやすい立場に置かれる。 属人的な運用は、その人がいなくなった時点で壊れる構造を最初から抱えている。新規事業配属者を守るために必要なのは、上司個人の善意ではなく、制度として別立てされた評価基準だ。基準が制度として存在しなければ、担当者の評価は常に「今の上司の裁量」という不安定な土台の上にある。 制度が変わるのを待たず、配属時点で評価基準をすり合わせるという打ち手 とはいえ、人事制度の改定には時間がかかる。次の考課期を待たずにできる防御策は、配属が決まった時点で評価者と「今期は何をもって評価されるか」を言語化しておくことだ。 財務目標の達成率ではなく、検証した仮説の数、獲得した顧客インタビューの件数、撤退すべき仮説を見極めた判断そのものを評価軸にできないか——この問いを、評価期間が始まる前に一度投げておく。合意した内容は面談メモの一行でよいので、期末に「言った・言わない」にならない形で残しておきたい。 これらの軸は財務指標ほどの厳密さは持たない。それでも、探索の質を測る代理指標としては十分に機能する。大事なのは、この軸を評価者と担当者が期初の時点で共有しているという事実そのものだ。 これは個人の処世術にとどまる話ではない。人事責任者の側から見れば、この配属時点のすり合わせをテンプレート化し、異動のたびに個別交渉させない仕組みへと接続できる問いでもある。 もっとも、この言語化は簡単ではない。評価者自身が新規事業の評価軸を持っていない場合が多く、すり合わせようにも相手に基準がない、ということも起こる。それでも、何も言わずに期末を迎えるより、期初にこの問いを一度投げておく方が、面談室の沈黙は避けられる。 次の考課期が始まる前に、評価者との間で「今期の評価軸」を一行でも言語化してすり合わせておいてほしい。それで面談室の空気が完全に変わるとは言わない。ただ、次に「達成率は?」と聞かれたとき、口ごもる時間は今より短くなるはずだ。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会やコラムのお知らせはメールマガジンを通して行なっております。ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### 新規事業の「撤退基準」を握れない組織はなぜ、握れないまま突き進んでしまうのか——「やめる約束」を先に交わすという発想 URL: https://commit.management/news/shinjigyo-tekkai-kijun/ 四半期ごとの経営会議で、同じ新規事業の数字が2年、3年と報告され続けている。売上は計画に届かず、赤字幅もほとんど縮まっていない。それでも会議室で交わされるのは「来期はどう立て直すか」という話ばかりで、「いつまで続けるのか」を正面から口にする者はいない。撤退の二文字が議題に乗った瞬間、話は担当者の努力不足や覚悟の問題にすり替わり、結局は「もう少し様子を見よう」で締めくくられる。 なぜ撤退基準は「事業が苦しくなってから」議論されるのか 新規事業の立ち上げ時、事業計画書には強気の前提しか書かれない。市場は想定通りに立ち上がり、顧客は思った通りの単価で買ってくれる。その前提のもとで書かれた計画に、あらかじめ「この数字を下回ったら撤退する」という一文を差し込む起案者はほとんどいない。撤退ラインを最初から書き込むこと自体が、自分の事業への自信のなさを表明しているように受け取られかねないからだ。 結果として、撤退基準は「事業がうまくいかなくなってから、その都度」議論される対象になる。しかしこの段階まで来ると、議論はもう純粋な経営判断ではなくなっている。担当者は既に2年、3年をこの事業に投じており、ここで撤退を認めることは自分のキャリアの評価に直結する。周囲も、これまでの投資額を思えば「今さらやめるのはもったいない」というサンクコストの感覚から逃れられない。合理的に判断すべき停止のタイミングが、個人の覚悟と組織の空気という、本来判断材料にすべきでない要素に押し流されてしまう。 撤退基準を意思決定の「型」に組み込む この構図を崩す起点は、撤退基準を「事業が苦しくなってから決めるもの」から「コミットする前に決めておくもの」へ順序を入れ替えることにある。事業に着手する承認を得る瞬間に、投資額や体制と並んで「どの検証ステージで、何の数値が、どの水準を下回ったら止めるか」を合意事項として書き込んでおく。 具体的には、事業の進行を「顧客仮説の検証まで」「収益モデルの検証まで」「量産・拡大判断まで」といった節目で区切り、それぞれの節目の終わりに継続・修正・撤退のいずれかを判断する設計にする。研究開発マネジメントの分野で使われてきたステージゲート法や、リーンスタートアップが広めた構築・計測・学習のサイクルも、根本にあるのは同じ発想だ。投資判断を一度で終わらせず、検証の節目ごとに区切って段階的に見直す。 この設計の核心は、撤退の是非を「その場の空気」ではなく「あらかじめ合意しておいた基準」に照らして判断する点にある。基準が事前に合意されていれば、撤退の議論は担当者への評価から切り離され、ただ基準と照合するだけの作業に変わる。基準を下回ったから止める。それだけだ。最初に決めた約束を組織として守った、担当者個人の力量とは無関係な出来事として処理できる。 「撤退」を終了ではなく、資源を次へ返す経路として捉え直す 撤退基準をあらかじめ握ることの本当の意味は、事業を早くやめさせる仕組みを作ることではない。学習と人材と予算という資源を、見込みの薄い場所に留め続けるのではなく、次の挑戦へ健全に返していく経路を用意することにある。基準に達しないまま漫然と続く事業は、その事業自体が苦しいだけでなく、次に生まれるはずだった別の事業の機会を奪ってもいる。 「やめる約束」を最初に交わしておくことは、一見すると事業への本気度を疑わせる行為に見える。しかし実際には逆の効果を持つ。撤退の基準と手順があらかじめ決まっている組織では、担当者は「合意した基準の範囲でやり切る」という明確な約束のもとで動ける。撤退の話を切り出すことが個人攻撃にならないと分かっているからこそ、検証の途中で不都合な事実が見えたときに、それを早く言い出せるようにもなる。 いま動いている新規事業のうち、撤退基準が誰と何の数値を根拠に合意されているか、言葉にして書かれているものはいくつあるだろうか。答えが出ない事業ほど、次の四半期も同じ数字を報告し続ける。 --- ### 新規事業の企画が稟議で通らない本当の理由——「正しい提案」より「通る設計」が要る URL: https://commit.management/news/ringi-shinjigyo-seiji/ 数字を固め、ロジックを詰め、想定質問への回答まで用意した。そのはずの新規事業提案が、経営会議で「もう少し詰めてから」と押し戻される。次の会議で修正版を出しても、また別の角度から待ったがかかる。担当者は自分の説明力や資料の完成度を疑い始めるが、直してもなぜか同じ壁に当たる。 この壁は、提案書の中身の問題ではないことが多い。稟議が通らない理由の大半は、資料の質ではなく、合意形成というプロセスそのものの設計不足にある。 稟議は一発勝負ではなく、事前の連続プロセスである 会議の場に初めて資料を持ち込み、その場で決裁者の理解と賛同を得ようとする進め方は、構造的に分が悪い。決裁者は会議の場で初めて聞く話に対しては、まず慎重な姿勢を取るのが自然な反応であり、その場で好意的な判断を返すことのほうが例外に近い。持ち帰りや保留は、内容が悪いという評価ではなく、判断材料が揃っていないという合図であることが多い。 会議とは、そこで初めて説得する場ではなく、それまでに解消しておいた懸念を確認し合う場だと捉え直すと、景色が変わる。会議前日に資料一式を送りつけただけの状態で本番を迎え、冒頭の質疑で最初の一言から防戦に回る——このパターンに心当たりがあるなら、直すべきは資料の中身ではなく、会議に至るまでの時間の使い方のほうだ。会議前に決裁者と個別に接点を持ち、疑問や懸念をあらかじめ聞き出し、資料に反映しておく。会議の場で決まることは実は少なく、大半はその手前で決まっている。この前提に立てなければ、どれだけ資料の完成度を上げても、会議当日に想定外の懸念が噴出する構造は変わらない。 決裁者ごとに異なる懸念の種類を見分ける 同じ提案書を同じ会議で示しても、決裁者が引っかかる点は一様ではない。財務を預かる立場であれば投資回収の確実性が気になるし、既存事業の責任者であれば自部門のリソースやブランドへの影響が気になる。経営企画の立場であれば全社戦略との整合性を、個人としては自分がこの案件を承認したことがどう評価されるかを気にする人もいる。 厄介なのは、この懸念の種類を見誤ったまま補強を重ねてしまうことだ。財務的な保守性を懸念している決裁者に対して、戦略的な意義を熱心に語っても響かない。逆に、自部門への影響を懸念している決裁者には、投資回収シミュレーションをいくら精緻化しても的外れになる。提案の完成度を上げる前に、まず「この人は何を懸念しているのか」を一人ずつ言語化する作業のほうが、次の会議の結果を大きく左右する。 この発想は、経営学者R・エドワード・フリーマンが提唱したステークホルダー理論——意思決定の影響を受ける・与える関係者を洗い出し、その関心事を個別に把握するという枠組み——とも重なる。フリーマンの理論が本来対象とするのは株主・顧客・従業員・地域社会といった外部の利害関係者だが、同じ発想は社内の意思決定プロセスにもそのまま応用できる。決裁者もまた、それぞれの立場から事業を評価する一つの「ステークホルダー」であり、その関心事を個別に洗い出す作業を経ずに全員へ同じ資料をぶつけることのほうが、むしろ不自然だと捉え直せる。 「反対しない人」まで含めて事前に一人ずつ回る 事前の根回しというと、賛成してくれそうな人を味方につける作業だと捉えられがちだが、それだけでは不十分だ。会議の場では黙って頷いていた本部長が、翌週になって「もう一度確認させてほしい」と資料を差し戻してくる——こうした、いわばサイレントな抵抗者の存在が見落とされやすい。この層は会議中には可視化されないため、事前に洗い出さない限り気づかないまま提案が止まる。 この作業を、特定の担当者の勘や経験に依存した処世術として扱ってしまうと、組織としての再現性が失われる。むしろ、決裁に関わる人物を一人ずつ書き出し、それぞれの懸念を仮でよいので言語化しておくという手順は、誰が担当しても再現できる設計として扱える。属人的な「根回しがうまい人」に依存する体制から、手順として引き継げる体制へ移す発想の転換が、ここでの要点になる。 新規事業の成否を決めるのは、事業そのものの筋の良さだけではない。その筋の良さを、社内の意思決定プロセスの中でどう通すかという設計もまた、責任者が担うべき仕事の一部である。 次の会議に臨む前に、決裁に関わる一人ひとりについて、いま何を懸念していそうかを1行で書き出してみてほしい。それだけで、会議の当日に何が起きるかの見え方が変わってくる。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会やコラムのお知らせはメールマガジンを通して行なっております。ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 --- ### 新規事業支援のキュレーションズ、新規事業部門責任者向け研究「COMMIT」を設立 URL: https://commit.management/news/006/ 業界初となる新規事業部門責任者向け研究会「COMMIT」を設立 ~旭化成やライオンで新規事業を創出してきた経験者から直接「事業創出の型」を学べる〜 ◼︎新規事業部門責任者向け研究会「COMMIT」設立の経緯 大企業や伝統企業をはじめとした成熟事業を持つ企業における「新規事業」は、一人の卓越したイノベーターに任せたら生み出せる、という単純なものではありません。経営者・マネジメント層・担当者、それぞれの階層にいる「社内起業家精神(イントラプレナーシップ)」を持つ人達が試行錯誤を繰り返し、総力戦で戦い抜く風土づくりが必須です。この実現の鍵は「組織の要」であるミドルマネジメント(役員~部次長級)にあると考えます。 一方で、新規事業部長の業務は多岐にわたり、多忙を極めます。正解が無い中、自社にある技術や過去のアイデアの棚卸、他社の新規事業開発の仕組みの情報収集、人材を育てる仕組み、エンジニア採用、ビジネスコンテストのあり方などについて、自社に合った「新規事業開発の型」を見出すために試行錯誤しています。また経営層との対話により会社が実現したいこととのすり合わせ、具体化など実務的な面を担う方も多く、その知見は個人にしか貯まりません。しかし、こういった個人に蓄積された知見は、書籍やレポートなどに集約されていません。 そこで、大企業や伝統企業で新規事業の部門責任者として新規事業・会社変革に挑戦してきた経験者が集い、会社を変えていきたいという課題認識を持って活動する今の新規事業部長に「生きる暗黙知」を提供するための研究会として、6人の発起人(COMMIT Leader)を中心とした「COMMIT」を設立しました。 「COMMIT」を通じ、孤独を抱えながら奮闘する新規事業部長責任者の悩みを解決し、自社に合った「新規事業創出の型」を創っていくためのコミュニティを提供します。 ■新規事業部門責任者向け研究会「COMMIT」の活動内容 会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。 なお、COMMITは「COnsortium of Middle Management for Intrapreneur Transformation(社内起業家の変革に向けたミドルマネジメントによる研究会)」の略となります。 研究会にご興味のある方は下記問合せ先までご連絡ください。 IntraStarのメールマガジン登録はこちら <会員コンテンツ> 無料ホワイトペーパー ホワイトペーパー「新規事業部長に求められる知識・マインド」をご提供。 セミナー参加 COMMITでの研究内容や、COMMITに参画する発起人メンバーの知見の一部を公開するセミナーをご案内します。 オフライン交流会 大企業・伝統企業の部長級が集まるオフラインでの交流会を実施します。 COMMIT Leader個別相談会 自社のお困りごとに合わせて、COMMIT Leaderとの個別相談の出来る機会を提供します。 --- ### 新規事業責任者が陥りがちな「評価指標の罠」——なぜ黒字化前に潰されるのか URL: https://commit.management/news/kpi-no-wana-shinjigyo/ 既存事業のモノサシで、新規事業を測ってはいけない 経営会議で「この事業はいつ黒字化するのか」と問われ、答えに詰まった経験はないだろうか。新規事業部門の責任者であれば、一度は通る道だ。売上も利益率もまだ整っていない段階で、既存事業と同じ物差しを当てられ、説明のたびに肩身が狭くなる。 ここで起きているのは、担当者の力量不足ではない。評価指標そのものが、事業のフェーズに合っていないという構造の問題だ。既存事業の管理会計は、需要も収益構造もすでに検証済みという前提で組まれている。だからこそ売上や利益率という「結果」を測ることに意味がある。ところが新規事業の初期段階は、そもそも何が売れるか、誰が買うかがまだ確定していない。結果を測る指標を当てはめれば、結果は出ない。出ないことを理由に「順調ではない」と判定され、予算も人員も細っていく。新規事業が早期に縮小・撤退へ追い込まれる、ありふれた経路である。 フェーズで指標を切り替える 事業のフェーズに応じて測るものを切り替える。まずはこの発想が要る。仮説がまだ検証されていない探索期には、売上ではなく「何が分かったか」という学習指標を主役に据える。想定していた顧客の課題は実在するか。価格に見合う価値と受け止められるか。そうした問いに答えが出ているかどうかを見る段階だ。仮説が固まりつつある検証期には、実際に対価を払う顧客が現れるかという需要の指標に軸足が移る。そして事業として繰り返し成立することが見えてきた拡大期になって、財務指標がようやく意味を持つ。この三段階を意識せず最初から財務指標だけで管理しようとすると、探索期の事業は必ず「失敗」に見えてしまう。 経営会議の報告様式に組み込む もう一つ有効なのが、学習指標を経営会議の報告様式に正式に組み込むことだ。多くの組織で、報告フォーマットそのものが財務指標を前提に設計されている。売上・利益・進捗率の欄しかなければ、報告する側は埋まらない欄を空白のまま出すか、無理に数字をひねり出すしかない。学習指標を財務指標と並べて書ける欄を用意しておけば、探索期の事業も「何も進んでいない」のではなく「これだけの仮説を検証した」と説明できる。フォーマットを変えるだけで、報告の苦しさはかなり軽くなる(議題の立て方を決める権限は、案外現場側にある)。 評価指標を事前に握っておく 三つ目は、評価指標そのものを経営層とあらかじめ合意しておくことだ。事業が走り出してから「なぜこの数字なのか」を説明するのは、責任者にとって最も分の悪い戦い方になる。事業を始める前に、今はどのフェーズにあり、だから何を測るのかを経営層と共有しておけば、報告の場は言い訳ではなく進捗確認に変わる。合意は一度で終わらない。フェーズが移るたびに、測るものを見直す前提で繰り返す必要がある。 もっとも、この切り替えは口で言うほど簡単ではない。学習指標は財務指標に比べて曖昧に見える。経営層の一部からは「都合よく失敗を隠す言い訳ではないか」という疑いの目を向けられることもある。この懸念は正当なものだ。だからこそ学習指標には、何を検証し、どういう基準で仮説の成否を判定するかを事前に明文化しておく必要がある。曖昧なまま運用すれば、学習指標もまた別の形の言い訳に堕ちる。指標を変えるとは、管理を緩めることではない。解像度を上げることだ。 新規事業の成否は、事業そのものの筋の良し悪しより先に、何を測るかという設計でほとんど決まる。既存事業のモノサシを外し、フェーズに合った指標を自ら経営会議に持ち込めるかどうか。それは責任者にしか担えない仕事の一つだ。 今、自部門で動いている新規事業を思い浮かべてほしい。測っている指標は、今のフェーズに合っているか。それだけを、確かめてほしい。 COMMITについて COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。 なお、研究会やコラムのお知らせはメールマガジンを通して行なっております。ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。 ---