「本業と兼務で、新規事業の責任者を任されました。週に二日は新規に充てるつもりです」

新規事業に着任した責任者から、こうした話を聞くことがある。意欲は高く、会社も後押ししている。ところが半年ほどたつと、「二日どころか、気づけば半日も取れていない」と言う。

原因は本人の怠慢ではなく、兼務という任命の形そのものにある。それが、新規事業を後回しにする仕組みを内蔵していることが多い。

兼務は、時間に加えて判断の余地を奪う

兼務の悩みは、まず「時間が足りない」と語られる。たしかに、本業の会議や決裁は予定が先に埋まり、新規の仕事は空いた隙間に押し込まれる。

ただ、実際に失われているのは、まとまった時間と、判断の余地のほうだ。

新規事業の仕事は、細切れにすると進みにくい。顧客に会い、聞いた内容を持ち帰り、仮説を直し、次に会う相手を決める。この一周には、頭を切り替えずに続けられる時間が要る。三十分の隙間を六回集めても、一周は回らない。

もうひとつは、判断の速さだ。本業は、決まった型の中で素早く判断できるように組まれている。新規は逆で、前例のない選択を続ける。兼務の責任者は、本業の判断の速さに合わせて動くうちに、新規でも「確実なことから片づける」癖がついていく。結果、不確かな仮説の検証が、いちばん後ろに回る。

本業が優先されるのは、責任者の意思ではなく構造による

兼務の責任者が本業を優先してしまうのは、気持ちの問題とは限らない。

本業には、期限と数字と、待っている部下や取引先がいる。新規には、まだ待っている人がいない。誰かの返事を止めている実感があるのは本業のほうだ。人は、止めている相手が見える仕事から先に片づける。

評価の面でも同じことが起きる。本業の成果は四半期ごとに数字になる。新規の成果は、数字になるまでに年単位でかかる。評価が年に一、二度の面談で決まるなら、そこで語れる材料を持っているのは本業のほうだ。

つまり、本人が「新規を大事にしたい」と思っていても、周囲の構造が本業を選ぶように働き続けている。

兼務をやめられないとき、何を決めておくか

実務では、専任を置けない会社も多い。人が足りない、成果が見えない段階で人を割けない、といった事情は自然なものだ。そのうえで兼務を続けるなら、任命のときに次の三つを決めておきたい。

  • 時間の置き場を固定する:「週に二日」ではなく「毎週火曜と水曜の終日」のように、曜日で切る。隙間に頼らず、本業の予定が入らない日を先に確保する
  • 本業の側の仕事を、外す:新規を足すなら、本業から何かを外す。外す仕事を名指しで決め、上司と合意する。何も外さずに足すと、新規は「余力で行う仕事」になる
  • 新規の成果を、評価の場で語れる形にする:数字がまだ出ないなら、検証した仮説の数や、顧客から得た学びなど、年に一度の面談で説明できる材料を、あらかじめ評価者と決めておく

三つ目は、とくに見落とされやすい。新規に使った時間が評価の場で認められないなら、責任者は合理的に本業へ戻る。

兼務は、いつまで続けるかを決める

兼務は、始める時点で終わりの条件を置いておくほうがよい。「この検証が終わったら専任に切り替えるか判断する」「半年たって顧客が三社つかなければ体制を見直す」といった形だ。

終わりの条件がない兼務は、事業が育たない理由を「時間が取れなかったから」と説明できてしまう。誰も判断を誤ったわけではないのに、事業だけが静かに止まる。

いまの任命を、見直してみる

自分の事業の体制を、振り返ってみてほしい。新規に使う時間は、曜日として固定されているだろうか。本業から外された仕事は、名指しで決まっているだろうか。

どちらも無いなら、進まない理由は事業の中身より先に、任命の形にある。そこから直すと決めれば、次の面談までにできることが見えてくる。

COMMITについて

COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。

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