「既存事業の営業部門に、顧客を紹介してほしいとお願いしたのですが、結局、一件も繋がりませんでした」

新規事業の責任者から、こうした話を聞くことは珍しくない。経営層は協力を指示しており、営業部門の責任者も表向きは前向きだった。それでも、紹介は動かない。

営業部門に悪意はない。組織の側に、協力しないほうが合理的になる構造がある。

協力が止まる構造

新規事業が最初に頼りたいのは、たいてい既存事業がすでに関係を築いている顧客だ。信頼があり、課題の仮説も立てやすい。新規事業の責任者がそう考えるのは自然なことだ。

ところが、営業部門の担当者の目標は、既存事業の売上と継続率で決まっている。新規事業を顧客に紹介しても、その担当者の評価に加点される仕組みはない。

一方で、紹介にはリスクがある。新規事業の試作品に不具合があれば、既存事業の信頼まで傷つく。顧客から「こんな未完成なものを持ってこないでほしい」と言われるのは、紹介した担当者だ。

加点がなく、減点だけがある。この条件で動く人は少ない。顧客が重なるほど、営業部門にとって失うものが大きくなるので、協力は遠のく。

「顧客の取り合い」が見えないまま進む

もう一つ、見えにくい問題がある。新規事業の提供価値が、既存事業の領域に近いほど、営業部門は新規事業を「自分たちの売上を奪う存在」として見はじめる。

この見方は、会議の場では口に出されない。「検討します」という返事が続き、時間だけが過ぎる。新規事業の責任者は、断られていることに気づけないまま、返事を待ち続ける。

協力が得られないとき、原因を相手の姿勢に求めても何も変わらない。見るべきは、協力した側に何が起きるのかという点だ。

協力の「見返り」を先に設計する

この停滞を動かすには、営業部門の担当者が協力したときに何を得るのかを、先に決めておく必要がある。

たとえば、紹介から生まれた商談を、既存事業の担当者の成果としても数える。新規事業の試作品を顧客に出す前に、既存事業側が内容を確認できる場を設ける。紹介先の顧客を、新規事業がどう扱うかを事前に共有しておく。

どれも、協力する側の損得を整える作業だ。熱意で頼み込むことでも、経営層の指示を重ねることでもない。

もっとも、この設計は新規事業の責任者ひとりで完結しない。評価の仕組みに触れる話なので、経営層や人事の側が動く必要がある。ここを曖昧にしたまま「協力してください」と言い続けても、返事は変わらない。

今、頼っている部門にとっての「得」は何か

新規事業が既存部門の協力を得られないのは、依頼の仕方が悪いからではない。協力した人が損をする構造のなかで、協力を求めているからだ。

今、自分の新規事業が協力を頼んでいる部門について、その担当者が協力した結果、何を得て、何を失うのか。その答えを、相手の立場で言葉にできるだろうか。

COMMITについて

COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。

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