既存事業のモノサシで、新規事業を測ってはいけない

経営会議で「この事業はいつ黒字化するのか」と問われ、答えに詰まった経験はないだろうか。新規事業部門の責任者であれば、一度は通る道だ。売上も利益率もまだ整っていない段階で、既存事業と同じ物差しを当てられ、説明のたびに肩身が狭くなる。

ここで起きているのは、担当者の力量不足ではない。評価指標そのものが、事業のフェーズに合っていないという構造の問題だ。既存事業の管理会計は、需要も収益構造もすでに検証済みという前提で組まれている。だからこそ売上や利益率という「結果」を測ることに意味がある。ところが新規事業の初期段階は、そもそも何が売れるか、誰が買うかがまだ確定していない。結果を測る指標を当てはめれば、結果は出ない。出ないことを理由に「順調ではない」と判定され、予算も人員も細っていく。新規事業が早期に縮小・撤退へ追い込まれる、ありふれた経路である。

フェーズで指標を切り替える

事業のフェーズに応じて測るものを切り替える。まずはこの発想が要る。仮説がまだ検証されていない探索期には、売上ではなく「何が分かったか」という学習指標を主役に据える。想定していた顧客の課題は実在するか。価格に見合う価値と受け止められるか。そうした問いに答えが出ているかどうかを見る段階だ。仮説が固まりつつある検証期には、実際に対価を払う顧客が現れるかという需要の指標に軸足が移る。そして事業として繰り返し成立することが見えてきた拡大期になって、財務指標がようやく意味を持つ。この三段階を意識せず最初から財務指標だけで管理しようとすると、探索期の事業は必ず「失敗」に見えてしまう。

経営会議の報告様式に組み込む

もう一つ有効なのが、学習指標を経営会議の報告様式に正式に組み込むことだ。多くの組織で、報告フォーマットそのものが財務指標を前提に設計されている。売上・利益・進捗率の欄しかなければ、報告する側は埋まらない欄を空白のまま出すか、無理に数字をひねり出すしかない。学習指標を財務指標と並べて書ける欄を用意しておけば、探索期の事業も「何も進んでいない」のではなく「これだけの仮説を検証した」と説明できる。フォーマットを変えるだけで、報告の苦しさはかなり軽くなる(議題の立て方を決める権限は、案外現場側にある)。

評価指標を事前に握っておく

三つ目は、評価指標そのものを経営層とあらかじめ合意しておくことだ。事業が走り出してから「なぜこの数字なのか」を説明するのは、責任者にとって最も分の悪い戦い方になる。事業を始める前に、今はどのフェーズにあり、だから何を測るのかを経営層と共有しておけば、報告の場は言い訳ではなく進捗確認に変わる。合意は一度で終わらない。フェーズが移るたびに、測るものを見直す前提で繰り返す必要がある。

もっとも、この切り替えは口で言うほど簡単ではない。学習指標は財務指標に比べて曖昧に見える。経営層の一部からは「都合よく失敗を隠す言い訳ではないか」という疑いの目を向けられることもある。この懸念は正当なものだ。だからこそ学習指標には、何を検証し、どういう基準で仮説の成否を判定するかを事前に明文化しておく必要がある。曖昧なまま運用すれば、学習指標もまた別の形の言い訳に堕ちる。指標を変えるとは、管理を緩めることではない。解像度を上げることだ。

新規事業の成否は、事業そのものの筋の良し悪しより先に、何を測るかという設計でほとんど決まる。既存事業のモノサシを外し、フェーズに合った指標を自ら経営会議に持ち込めるかどうか。それは責任者にしか担えない仕事の一つだ。

今、自部門で動いている新規事業を思い浮かべてほしい。測っている指標は、今のフェーズに合っているか。それだけを、確かめてほしい。

COMMITについて

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