「試作品を顧客に見せたいのですが、法務と品質保証の確認が終わらず、三か月止まっています」

新規事業の責任者から、こうした相談を受けることがある。審査を担当する部門は、決められた仕事を丁寧にこなしている。それなのに、事業は前へ進まない。

止まっている原因は、審査の担当者の姿勢ではない。審査の基準が、新規事業を想定して作られていないことにある。

既存事業の基準は、完成した商品のためにある

法務の契約審査も、品質保証の出荷基準も、すでに売り上げが立っている事業を守るために整えられてきた。過去の事故や訴訟、クレームから学んで積み上げた、組織の防御の仕組みだ。

この基準は、完成した商品や確立した契約の型を前提にしている。仕様が固まっていて、顧客への提供方法が決まっていて、責任の所在も整理されている。

新規事業の初期は、そのどれも決まっていない。試作品は不完全で、契約の型もまだない。そこに完成品向けの基準をそのまま当てると、ほとんどの項目が「確認できない」「未定」になる。審査が通らないのは、基準を満たせないからではない。基準が測れる状態に、事業がまだ達していないからだ。

担当者には「通さない」ほうが安全な理由がある

審査の担当者の立場からも見ておきたい。承認して問題が起きれば、責任を問われる。承認しなくて起きる損失は、数字に表れない。

この非対称のなかで、判断を保留するのは、組織の人として自然な行動だ。「もう少し詳しい資料をいただけますか」という返事は、責任を負うための材料がまだ足りないという意思表示だ。

審査を「通す」のではなく、「段階に分ける」

動かすには、新規事業の段階に合わせて、審査の中身を分けることが要る。

たとえば、社内の検証だけで終わる段階と、少数の顧客に試作品を渡す段階と、有償で提供する段階を分ける。段階ごとに、確認する項目と深さを、審査部門と事前に決めておく。初期の段階では、顧客に与える影響が小さい範囲に限定する条件を付けて、確認項目を絞る。

大切なのは、審査部門を「関所」として扱わないことだ。段階の設計に、最初から審査部門に加わってもらう。そうすれば、審査部門は何を確認すれば責任を負えるのかを、自分たちの言葉で決められる。

もっとも、段階を分けて審査を軽くする判断は、新規事業の責任者ひとりでは下せない。経営層が、リスクをどこまで許容するかを明言する必要がある。ここが曖昧なままだと、審査部門は結局、最も安全な側に倒す。

今の審査は、事業の「どの段階」を測っているか

自分の新規事業が、いま審査で止まっているとしたら、その審査は何を測ろうとしているだろうか。完成した商品の安全か、確立した契約の型か。それとも、いま検証したい仮説の範囲か。

審査を待つ時間は、事業の学びが止まる時間でもある。止まっている理由を、審査部門の側から言葉にしてみることが、最初の一歩になる。

COMMITについて

COMMITは、新規事業を通じて会社を変えていきたいという課題認識を持つ大企業・伝統企業の新規事業部門責任者に対して、実務経験豊富な経験者の暗黙知を提供し共に学び合うコミュニティです。詳細はプレスリリースをご参照ください。

なお、研究会やコラムのお知らせはメールマガジンを通して行なっております。ご希望の方はIntraStarのメールマガジンにご登録ください。