「二十社に話を聞きました。ほとんどの方が『いい話ですね』と言ってくれました」
新規事業の責任者から、こうした報告を聞くことがある。手応えは悪くない。社内に示せる数字もある。ところが、その先で事業が進まない。試作を見せても、契約の話に進めても、相手の返事がなぜか鈍くなる。
原因は、「いい話ですね」という言葉を、需要の証拠として数えてしまうことにある。
好意的な反応は、礼儀として返ってくる
ヒアリングに応じてくれる相手は、たいてい親切だ。時間を割いてくれた人に対して、否定的なことは言いにくい。目の前で熱心に語る人を前に、「うちでは使いません」と言い切れる人は多くない。
だから、アイデアを説明して感想を聞く形のヒアリングでは、好意的な答えが集まりやすい。好意的な答えは、会話の作法として自然に出てくる反応にすぎない。
この反応には、相手が実際に動くかどうかの情報が、ほとんど含まれていない。
聞くべきは、意見ではなく過去の行動
需要の手がかりになるのは、相手がすでにやったことだ。
- その課題に、最近いつ困ったか
- そのとき、何をしたか(誰に頼み、何を使い、いくら払ったか)
- いまの解決法の、どこが不満か
- 不満を解消するために、これまで何か試したか
過去の行動は、礼儀では変わらない。課題に困っていても何も試していない相手は、課題が小さいか、優先順位が低い。逆に、不便な手作業を自分で工夫して続けている相手は、解決策に価値を感じる可能性が高い。
自分のアイデアは、後半まで話さない
アイデアの説明から入ると、会話が感想の交換になる。まず相手の状況を聞き、過去の行動を確かめる。アイデアを話すのは、そのあとでよい。話さずに終わるヒアリングがあっても構わない。
最後に、小さな約束を頼む
好意が本物かどうかは、小さな約束で確かめられる。次の打ち合わせの日程をその場で決めてもらう。社内の担当者を紹介してもらう。試作の段階で、利用の条件を一緒に書いてもらう。
約束を断られたとき、「いい話ですね」は礼儀だったと分かる。それは早い段階で得られた、貴重な情報だ。
報告に「約束の数」を書く
社内への報告では、「二十社中十八社が好意的」という書き方をやめたい。代わりに、過去に行動していた相手の数と、次の約束まで進んだ相手の数を書く。数が少なくなっても、そのほうが、事業の現在地を正しく伝える。
直近のヒアリングメモを読み返してみてほしい。相手の感想と、相手の行動のどちらが多く書かれているだろうか。感想ばかりが並んでいるなら、事業が進まない理由の一部は、そこにある。
COMMITについて
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