4月に立てた事業計画は、7月にはもう前提が崩れている。ターゲット顧客の反応は想定と違い、当初描いていた収益モデルも成立しそうにない。それでも予算書だけは4月のまま動かない。期中に計画を見直したいと申し出ても、「今期の数字はどうなるのか」の一点で押し戻される。期末になれば、計画未達を理由に来期予算が削られる。
毎年これを繰り返している部門があるとしたら、原因は事業計画の精度でも担当者の説明力でもないことが多い。単年度という会計の周期と、新規事業が本来必要とする学習の周期。そもそもこの二つが噛み合っていない。
単年度会計は「反復可能な事業」を前提に設計された制度である
単年度予算は、来期も今期と同じような事業が続くことを前提に組まれている。既存事業であれば売上構造も原価構造もおおむね既知で、来期の数字を精度高く見積もることに意味がある。予算とは要するに「決まった型を、決まった規模で回すための資源配分」だ。
新規事業はこの前提の外側にいる。誰が買うのか、いくらで売れるのか、どんな体制を組めば利益が出るのか。この前提そのものが、まだ仮説の段階にある。4月の時点で1年後の売上を精度高く見積もろうとする作業自体、本来不可能な精度をできるふりで乗り切っているに過ぎない。会計年度という周期と、仮説を立てて検証し前提を更新するという学習の周期は、由来も長さも違う別物である。片方の物差しでもう片方を測ろうとすること自体に、そもそも無理がある。
「計画通り消化できないこと」ではなく「計画が早期に確定しすぎていること」が問題
期中に前提が変わっても予算配分を見直せない硬直性は、探索の速度そのものを鈍らせる。有望な兆しが見えた領域に予算を追加投入したくても、期初の計画にない支出は通しにくい。逆に、初期の検証で筋が悪いと分かった施策でも、予算がついている以上は消化圧力がかかり、見切りをつけるタイミングが遅れる。学習を促進するどころか、両方向から邪魔をしてくる制度になっている。
この問題意識自体は目新しくない。リーンスタートアップが広めた「構築・計測・学習」のサイクルも、研究開発マネジメントの分野で使われてきたステージゲート法も、投資判断を一度で終わらせず検証の節目ごとに区切って段階的に配分し直すという発想に立つ。最初にすべてを見積もり、1年分を一括で確定させるやり方とは、資源配分の設計思想そのものが違う。単年度予算がうまく機能しない根には、運用の甘さよりもこの設計思想の不一致がある。
予算の取り方・報告の仕方を制度側に合わせて設計し直す
現実には、多くの企業にとって会計年度そのものを新規事業のためだけに組み替える対応は難しい(決算の仕組みは新規事業部門一つの都合で動かせるものではない)。だとすれば、手を入れる余地が残っているのは会計制度そのものではなく、その制度の上で新規事業側がどう予算を申請し、どう報告するかという運用のほうになる。
一つの手当ては、年間予算を一括で確保するのではなく、検証マイルストーンごとに分割して申請する形に組み替えることだ。「顧客仮説の検証まで」「収益モデルの検証まで」と区切り、各段階の終わりに続行・修正・撤退を判断する。これなら期中の方針転換は計画からの逸脱ではなく、もともと想定されていた意思決定の一つとして扱える。
もう一つの手当ては、期中報告の言語を変えることだ。「計画比◯%未達」という報告は、単年度会計の物差しでしか自分たちの活動を語れていないという意味でもある。何を検証し、何が分かり、前提をどう更新したのかを合わせて報告できれば、数字の上での未達という表記そのものを、学習が進んだ記録として読み替えられる。
新規事業の成否を決めるのは、事業そのものの筋の良さと、それを社内のどの制度の上で走らせるかという設計の両方だ。後者もまた、責任者が担うべき仕事の一部にほかならない。
次の予算策定に臨む前に、自部門の予算枠をステージゲート型に組み替えられないか、経営企画や財務の担当者に一度持ちかけてみてほしい。会計年度は変えられなくても、その中の配分の切り方には、まだ対話の余地が残っている。
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